大陸からやってきた阿蘇の植物たち。
阿蘇の草原には、国内で阿蘇でしか見ることができない植物が数多く生育しています。ハナシノブやツクシマツモト、ツクシクガイソウ、ツクシトラノオ、アソノコギリソウ、アソタカラコウ、ヤツシロソウ、キスミレなどです。
これらは大陸系遺存植物と呼ばれ、現在よりも気候が冷涼で、朝鮮半島と九州とが陸続きであった古い時代に、大陸から南下。その後、阿蘇の火山活動と人間活動によって草原状態が維持され、さらに高原の冷涼な気候に恵まれて現在まで残ったと考えられています。これら大陸系の植物は、阿蘇に存在することによって、アジア大陸と九州とが陸続きであったことを語る、「歴史の生き証人」なのです。

阿蘇花野トラストに生育・生息する絶滅危惧種 絶滅危惧種フォトアルバムへ

◯絶滅危惧ⅠA類(CR)1種
ハナシノブ
◯絶滅危惧ⅠB類(EN)5種
ハナカズラ、ケルリソウ、ツクシクガイソウ、ヤツシロソウ、ヒメユリ
◯絶滅危惧Ⅱ類(VU)
マツモトセンノウ、オキナグサ、ベニバナヤマシャクヤク、ロクオンソウ、フナバラソウ、ツクシトラノオ、ゴマノハグサ、バアソブ、シオン、ホソバオグルマ、アソタカラコウ、マイヅルテンナンショウ、ゴマシジミ(動物)、ヒメシロチョウ(動物)
◯準絶滅危惧(NT)
ミチノクフクジュソウ、ノカラマツ、イヌハギ、サクラソウ、ムラサキセンブリ、スズサイコ、アソノコギリソウ、ヒロハヤマヨモギ、クジュウツリスゲ、ムカゴソウ、オオジシギ(動物)

春の花野。春の花フォトアルバムへ

春が訪れると、草原は一面の若草色に。キスミレの黄色い花。フクジュソウもパラボラアンテナのような花を開き、太陽の光を精一杯に集める。ワラビやゼンマイ、ウド、人々は山菜採りに精を出します。コバルトブルーのハルリンドウ、ミツバツチグリやキジムシロの黄色い花、スミレ類の紫系の花。濃赤色のオキナグサや白い清楚なバイカイカリソウが目につくのもこの頃です。高原の谷間にはツクシシオガマの紅花、サクラソウのピンクの花、イチリンソウの白い花、あるいはヒトリシズカ、フタリシズカ、ニリンソウ、カノコソウ、ヒゴイカリソウなど、咲き競う花々で草原は彩られていきます。
そして、五月も終わり頃、中央火口丘の杵島岳や烏帽子岳山頂付近にイワカガミが咲きはじめ、一面のミヤマキリシマが仙酔峡や山上広場を覆う。波野高原のスズランも最盛期を迎え、阿蘇の草原はひと雨ごとに緑色が濃くなり、草原は日増しに初夏の装いをあらわにしていくのです。

夏の花野。夏の花フォトアルバムへ

梅雨を迎えると草原の植物はいよいよ成長のスピードを速め、緑の量がより豊かになってきます。ハナウドは1m以上に背を伸ばし、シライトソウやオカトラノオ、ノハナショウブ、ヤマホトトギスが草原に彩りを添えます。そして、阿蘇を代表する植物であるハナシノブの薄紫色の花やツクシマツモトの鮮やかな濃赤色の花が咲き、春にも増して華やいでいきます。
梅雨が明け、強い夏の日差しを受けるようになると、ススキやヤマハギ、シシウドなどが大人の背丈を追い越すほどに育ちます。アソノコギリソウ、ヒメユリ、オオバギボウシ、サイヨウシャジン、ヒメノダケなどが花盛り。夕陽が落ちる頃、ユウスゲが黄色の花を次々に咲かせ、真っ赤なオグラセンノウやミズチドリの白い花が、草原の谷間に点在する湿地を彩ります。

秋の花野。秋の花フォトアルバムへ

立秋を過ぎると、ヒゴタイやヤツシロソウ、オミナエシ、カワラナデシコ、コオニユリなどが花を開きます。阿蘇の人々はこれらを祖先の墓前に供え、月遅れのお盆を迎えます。湿地では、シラヒゲソウの白い花や、サワギキョウが咲き始め、ツクシフウロの大きなピンクの花もよく目立つようになります。
秋の気配が深まり、薄の穂が波打つころになると草原は刈り干し切りの季節になり、草小積がたかく積み上げられます。シラヤマギクやシロヨメナなどが目立つようになり、ツクシアザミやハバヤマボクチなどが秋を彩る。その足元にはリンドウやアキノキリンソウ、ウメバチソウ、ヤマラッキョウなどの小さな植物も、懸命に花を咲かせています。
雪がちらつく頃になると、シマカンギクやヤクシソウの黄色の花も咲き終わります。野の草花は深い冬の眠りにつき、来年の春を静かに待つのです。